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大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)587号 判決

控訴人(原告) 宇野秀治

被控訴人(被告) 滋賀県野洲郡野洲町長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が訴外梅景繊維工業株式会社の野洲町に対する別紙滞納税金表記載の滞納税金徴収のため昭和二七年一二月二二日滋賀県草津市所在草津倉庫において別紙物件表記載の物件に対してなした差押処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」という判決を求め、被控訴代理人は主文と同じ判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、控訴代理人において、「仮に本訴提起前に訴願又は異議申立の手続が必要であるとしても、控訴人は本件差押の事実を知つた後間もなく被控訴人に対しその解除を求めているから、これを差押に対する異議と見ても差支なく、又本件においては公売期日が非常に切迫していたので、右の手続を省略するについて正当の事由があつたものである。本件差押物件は、控訴人において昭和二七年一〇月二八日訴外梅景繊維工業株式会社に対して有する三〇万円の債権を担保する目的で他の物件と共に同訴外会社から譲渡を受けて所有権を取得したものである。」と述べた。(立証省略)

理由

先ず被控訴人の本案前の抗弁について考えるに、控訴人は、本訴において、被控訴人が訴外梅景繊維工業株式会社(以下単に訴外会社と呼ぶ)に対する地方税の滞納処分として第三者たる控訴人所有の別紙物件表記載の物件に対してなした差押処分の違法であることを主張してその取消を求めることは控訴人の主張自体によつて明らかであるけれども、行政庁が納税義務者に対する滞納処分として第三者の所有物件について差押及び公売の処分をしても、右処分は右物件に対する第三者の所有権を動かすことができない換言すると右処分の内容が法律上実現不能であるという意味で本来無効であり、従つて本訴は右無効の確認を求める趣旨で差押処分の取消を求めるものと了解すべきであり、右のように行政処分の無効確認を求める趣旨でその取消を求める訴は本質的には無効確認訴訟にほかならないから、なんどきでも訴を提起してその取消(無効確認)を求めることができるものと解すべく、従つてかかる訴については行政事件特例法第二条の訴願前置の規定はその適用がないものと解するのが相当であるから、本訴について右規定の適用あることを前提とする被控訴人の抗弁は採用できない。

そこで、本案に入つて検討する。

被控訴人が税金滞納者訴外会社に対する別紙滞納税金一覧表記載の税金についての滞納処分として昭和二七年一二月二二日滋賀県草津市所在草津倉庫において別紙物件表記載の物件に対し差押をしたことは当事者間に争いがない。

控訴人は、右物件は控訴人において右差押前の同年一〇月二八日訴外会社に対する三〇万円の債権を担保する目的で他の物件と共に訴外会社より譲渡を受けその所有権を取得したと主張するけれども、控訴人主張の譲渡契約が訴外会社の代表取締役梅景三次の意思に基いてなされた事実については、この点に関する原審並びに当審証人相良正治同藤下広吉、当審証人都築新七の証言及び原審並びに当審における控訴本人尋問の結果は信用しがたいし、他にこれを裏書するに足る確証がなく、却つて、原審並びに当審証人相良正治、同藤下広吉の各証言によつて成立を認める甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証、当審証人都築新七の証言の一部、原審における控訴本人尋問の結果の一部に、右甲第二号証、成立に争いのない乙第一乃至三号証、同第七号証、原審並びに当審証人市木弥惣治、同谷口孫太郎の各証言を総合して認め得られる、(イ)、本件差押物件のうちオープン機一台は草津税務署において訴外会社に対する税金滞納処分として昭和二七年二月一九日これを差押え、控訴人が本件物件の譲渡を受けたと主張する同年一〇月二八日には差押継続中であつた事実、(ロ)、控訴人主張の右譲渡契約の日の前日に訴外会社の代表取締役梅景三次が自ら公証人役場に赴き債権者日本合成繊維株式会社に対する債務のため訴外会社工場及び本件物件を含む工場備付の機械器具に抵当権を設定する旨の公正証書(乙第七号証)を作成した事実、(ハ)、本件差押前草津税務署が税金滞納処分として本件物件を差押えた際には控訴人は抵当権設定の公正証書(甲第二号証)の抄本を添付して公売代金の余剰金の交付要求をしたに過ぎず譲渡契約に基いて解除を要求しなかつた事実、(ニ)、本件差押の数日後控訴人は訴外藤下広吉を通じて野洲町徴税吏員に対し本件物件の差押解除請求書を差し出したが、右請求書には公正証書(甲第二号証)の抜き書を添えたのみで譲渡証書(甲第一号証)の写を添えず且右譲渡証書に基く主張をしなかつた事実をかれこれ考え合わせると、控訴人は昭和二七年八月九日頃訴外会社に対し三〇万円を貸与し、右債権を担保するため、同年一〇月二五日作成の公正証書(甲第二号証)に基き、訴外会社の工場等の建物と共に工場備付の機械類に抵当権の設定を受ける契約を結んだが、その後訴外会社の代表取締役梅景三次が不在となり右抵当権設定の登記手続を経由することができなくなつたので不安を感じ、更に担保の目的で同会社工場備付の本件物件を含む機械類の譲渡を受けたい旨訴外会社監査役相良正治に申入れたところ、会社の所有物について処分の権限のない右相良正治は、後日右梅景三次が帰宅した時に改めて同人の承諾を得る含みで、ほしいままに梅景三次の代理人として前記機械類を控訴人に譲渡する旨約したけれども、右梅景三次はその後も引きつづき所在不明のため前記承認を得るに由ないまま今日に至つていることをうかがうことができるから、右相良正治が代理人としてなした譲渡契約によつて控訴人は本件物件の所有権を取得するいわれがないものといわなければならない。

そうすると、本件物件が自己の所有に属することを前提とする控訴人の本訴請求は理由のないことが明らかであり、これを棄却した原判決は相当であるから、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決をする。

(裁判官 松村寿伝夫 竹中義郎 南新一)

(別紙省略)

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